旅する禅僧

より多くの方々に仏教をお伝えし、日常の仏教を表現していきます

上山 ※前

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こんにちは、禅信です。

 

関東では、梅が開花の時期を迎え日によっては

春を感じる暖かい風が吹くようになりました。

 

 

10年前の3月2日私は永平寺の山門に立ちました。

今日は修行に入った日のことを想い返しながら記事を書こうと思います。

 

 

小学4年生10歳の時に私は得度式を勤めました。

長野県から伯祖父が来て、導師を勤め白衣を身にまとった私にお釈迦様の教えと仏道に入る覚悟を示して頂きました。

 

その年からお盆のお経参りを手伝うようになり、父や手伝いに来ていた叔父から

永平寺での修行生活の話を聞くようになりました。

 

話の初めは決まって

「雪が屋根まで積もってすごく寒い」

「お米が少なくなるとお粥の水の量が増えて天井が映る程に薄くなる」

「毎朝早く起きるから立ったまま寝てしまうくらい眠い」

「足音ひとつ、たくあんを噛む音ひとつで古参の和尚から怒られる」

 

厳しかったことから始まりました。

厳しい話をしながらも楽しそうに同じ経験をしてきた者同士盛り上がっています。

 

大人になったら自分も永平寺に行くことを考えると、子供ながらそんなところでよく3年、4年も生活できるなぁと信じられない思いでした。

 

 

しかし、話が進むにつれて

「屋根まで積もった雪山に穴を掘ってかまくらをつくった話」

「裏山に山菜を獲りに行った話」

「仏殿にある献供用の砂糖をこっそり食べた話」

 

 

永平寺で生活する中での楽しみや昔から変わらずにこっそり行う楽しみ、

同安居や古参の和尚さんとの思いで話で盛り上がり、

これから修行に行く私に、

「まだ修行に行けるなんて羨ましいなぁ」

そんな事を口々に話してくれました。

 

 

そんな話を聞いていると、修行生活への憧れが強くなると共に

修行とは何をすることなのか?そんな疑問が湧いてきます。

 

大学4年生になるといよいよ永平寺修行生活が目前に迫り修行の許可し願書を送りました。

その返事には3月2日上山を許可すると書かれています。

 

 

日にちが決まると、いよいよ緊張と、知らない世界に飛び込むことへの不安が残りの生活を支配しました。

上山前日は永平寺門前の地蔵院に宿泊して古参和尚さんから威儀、荷物の点検を

していただき3月2日上山の許しを請うべく山門に立ちました。

 

同じ日に上山を志した7人で静かで大きな門の前でひたすら待ちます。

 

何時だったのか早朝の静けさの中遠くのお堂から鐘の音が響いています。

それから、木版を叩く乾いた音、ひとけの無い山奥で鳴らしものだけが響きます。

 

3月になりますが山門には雪が残り、立ち尽くす私達の手足は感覚がなくなる程に冷え切っています。

 

1時間ほど経っただろうか、急に大きな足音が遠くの方から迫ってきました。

山の上にある本堂から階段や回廊の雑巾がけをする足音でした、

さっきまでの静けさが嘘のように沢山の雲水が目の前を通り過ぎます。

みんな黒い作務衣を着て裸足で雑巾がけをしていました。

 

顔を上げることはできませんが、荒い吐息が白く残り滴る汗が回廊に落ちる様子に修行僧の一生懸命な姿が映り、背筋に緊張が走りました。

 

 

回廊清掃が終わりしばらくすると客行和尚が私たちの前に立ちました。

 

 

※長くなりましたので次回の投稿時に続きを書かせていただきます。