旅する禅僧

より多くの方々に仏教をお伝えし、日常の仏教を表現していきます

而今に学ぶ。12

 こんにちは。俊哲です。二週前に禅信さんがブラジルより投稿がありましたが、実は私も一緒に南米での法要に呼ばれご一緒させていただいておりました。

  禅信さんと私は、ブラジルのサンパウロにある佛心寺というお寺の開山60周年記念慶讃法要に参加をし、その後はかつて日本で20年に渡り修行されたブラジル人がご住職を務められるお寺にお世話になっておりました。

 

 その後、アルゼンチンへと移動をしました。アルゼンチンへ来たわけ。それは、私が副住職をしている寺のお檀家さんの親戚で、遠くアルゼンチンへ渡り開拓の礎を築いた方がおられるためです。

 

 日本におられるお檀家さんは幼き頃より私もよく知っている方で、その方も若い頃に親戚が南米にいる縁で旅をした話を聞かせてくれます。

旅を好きな者同士は年齢や時代の違いこそあれ、やれこんなことがあった、こんなものを見たと言う話で盛り上がります。その中で、四年前に南米に行く機会があり、その話をしたところ”是非、アルゼンチンの親戚のところへ”と話は進み、今回は四年ぶりに皆さんに再開することとなりました。

 

せっかくお宅にお邪魔するならと、前回もアルゼンチンでご法事を務めさせていただき、今回は禅信さんと二人でご法事をさせていただきました。ご法事が終わると、集まられた親戚の皆さまや、ご近所の皆さんたちとともに豪勢な料理を振舞っていただき日本から来たことを歓迎していただきました。

 

施主を務められたご兄弟は日系二世で、お父様は一世として、開拓といっても日系人たちのまとめ役としてアルゼンチンへ入られた方でした。法事の後席で話をしていると、席を同じくした一人の方がおられました。聞くと、その方は日系一世で戦後にアルゼンチンへ渡られた方でした。こちらへ移住後、ご兄弟のお父様に本当にお世話になったと話しておりました。その方が発せられた一言が強く印象に残りました。

 

「私のような者が、私のような能力しかない者が、家庭を築き仕事も家も持つことができた。アルゼンチンには感謝しかないし、先にこちらに入られた皆さんには感謝しかありません」

 

すぐに周りは「あ〜あ。よく言うよ」と茶々を入れましたが、その方が続けます。「皆さんは二世、三世だから実感はないと思うけど、戦中、戦後の日本を知っているからね。日本人の振る舞いや、戦後の経済成長で私らの信用が増し、そんな恩恵で生かされていますよ」

 

 

 私は前日、帰国前に立ち寄る場所のホテルを探すため予約サイトを見ておりました。そこには世界中の人たちからの口コミが見られます。一軒候補を見つけ口コミを眺めていると、口コミにはあれがない、これがない、こんなところが酷いと言ったレビューで溢れておりました。これが世界のトレンドなのかもしれません。

私は価格相応なのではと思い、宿泊しましたが、いたって快適な”価格相応”なホテルでした。

 

 明珠在掌という言葉があります。以前にもこちらで記したかと思いますが、明珠はすでに掌の中に在ると言う言葉です。戦中、戦後の時代の波に揺られた方達の言葉は重く響きました。今いる環境が当たり前ではなく、今いる環境に充足すると多くのことに気付き、感謝することができる。それは一つ、世界のトレンドに対して私が説いていかねばならないことなのかもしれないと思った旅でした。

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アルゼンチン大統領官邸 La Casa Rosada