旅する禅僧

より多くの方々に仏教をお伝えし、日常の仏教を表現していきます

而今に学ぶ。22

 こんにちは、俊哲です。

 令和3年度の盂蘭盆会(お盆)も終わり、世間では東京オリンピックの閉会や新規コロナ感染者数の増加、そして間もなく開会を迎える東京パラリンピックを控えております。各地では大雨や、世界を見たらアフガニスタン首都カブールをタリバンが制圧と、我々当事者は、ただ当たり前に迎える毎日をいつの日か激動の時代だったと振り返るのでは、と思いながら日々を過ごしております。本当に一日、一日、無事に生きられることの難しさを感じますね。

 

 私の居る寺ではこの時期、お盆も終わりホッと一息をつきます。

例年であれば、ふらりと旅に出たりするものですが、このコロナ禍ではそれも叶いません。読者の皆さんも同じようだと思いますが、ステイホームでできることを考えました。その中の一つとして、最近私は世界史の復習を始めました。

 

 しかし、別に大学受験をするわけではないので、何か学習の基準となる目標を立てようと思い、世界史の復習から派生して、世界遺産検定の勉強も始めました。

早速テキストを購入し、読み始めると、世界遺産には分類が3種類あることを知りました。聞いたことがあるかもしれませんが、『文化遺産、自然遺産、複合遺産』と呼ばれるものです。

 

 

その他、世界遺産への登録基準となる条件などを読んでいくと面白いことがわかってきます。

 

 既に登録された世界遺産のおよそ80%は文化遺産です。その世界遺産登録数の国別の順位では、イタリア、中国、ドイツ、スペイン、フランスの順で、日本も11位となっています。

 

 そのテキスト中にもありますが、こうした世界遺産登録は、顕著で普遍的価値を有するものを世界が一丸となって保護をするという目的がありますが、同時に観光資源として世界中にアピールするだけの宣伝材料にもなりえます。その中で、観光地化に偏り、本来の趣旨から逸れることには注意が必要としながらも、地元の人たちによって保護されることが大事であるとされ、観光資源となることもポジティブに捉えられています。

 

当然そうした背景もあって世界遺産登録を目指し、各国ロビー活動が行われるので、経済的に豊かな国の文化遺産登録数は多くなります。

 

こうしたことを学んでくると、以前旅をした際に見聞きした情報が思い出されます。

 

“建物の老朽化が進み、取り壊しの話になると、「経済成長のため」「地震国」「高温多湿な日本の気候は諸外国とは違う」という意見がこの日本では多く見られる。しかし、建てては壊すという、いわゆる新規の建設需要で経済を回すのは、発展途上の国が採用する成長モデルであり、先進国は古い建物を活用し、そこに付加価値を生み出す成熟型モデルを採用した方が圧倒的に大きな利益を得られる。” と言った話です。

 

 確かに、こうした文化遺産登録数の多い国は、先に述べたように、先進国と呼ばれる経済が比較的豊かな国であり、だからこそ成しえる芸当なのかもしれません。

 

 また別の話では、とある自治体が何の観光資源もない町を観光地化するためにはどうしたら良いかとある民俗学の教授に相談したところ、建物を立て替えず、今の生活を100年続ければ良いと言われたという話があります。

  

 しかしそこに生活がある以上、人は便利さや快適さを追い求めるので、100年の間、ちっとも近代化しない生活はできない、と私も考えてしまうのですが、これこそが『豊かな成熟社会』を実現していない証拠であります。

 

 豊かな成熟社会を実現した後であれば、先に述べたような成熟型モデルを用い、先進国は文化遺産を有利にお金にかえられます。社会が貧しくなれば、目先の利益を優先した経済運営が行われ、最終的には大きな富をもたらすはずの貴重な文化遺産を失っていくのです。ここ日本では、実際は過疎化によって廃村となる村々があり、そこには継承されてきて絶えることとなった無形の文化が山ほどあったでしょう。

 

 大きな「世界遺産」という枠にはかすりもしない遺産は山ほどあり、また、あったわけで、この世界遺産について学んでみると、そうしたことに思いを馳せます。

 

 

本当に大事なもの。禅の教えでは、一人一世界と言い、世界は各人にそれぞれ展開しています。あなたの世界遺産はなんでしょうか。その登録基準はなんでしょうか。

 

 

 こういった視点から考えますと、心の余裕や、私がいなくなった後の社会を考える余裕なき社会は、物質的豊かさも同時に失っているということがよくわかります。貧乏とは「貧に乏しい」とはよく言ったものです。「貧」とは貝(古くは財宝の意)を分け与えると書き、その「貧」の生き方とは、つまりは私がよければ良いという独善的な生き方ではなく、周りの人を利する生き方のことであり、仏教の説くところであります。この「貧に乏しい」貧乏な生き方ではなく、心にゆとりのある、そのゆとりに基づく「貧」の生き方が、より見直されて欲しい社会になりつつあると思います。

f:id:tabisuruzensou:20210818182744j:plain

1983年に世界複合遺産に登録されたペルー・マチュピチュ

f:id:tabisuruzensou:20210818182924j:plain

1991年に世界文化遺産に登録されたスリランカ・ダンブッラの黄金寺院

f:id:tabisuruzensou:20210818183117j:plain

1994年に世界自然遺産に登録されたベトナムハロン湾