旅する禅僧

より多くの方々に仏教をお伝えし、日常の仏教を表現していきます

而今に学ぶ。16

 こんにちは。俊哲です。

この数日、一連のコロナの騒ぎが国内でここまで大きくなる前に旅をした海外でのことをまとめておりました。その作業中、つい数ヶ月前のことがなんだか遠い昔の出来事のように感じました。つい数ヶ月前の出来事が非現実に感じられたのは、その時から見たら非現実であろう現在のWithコロナの生活に慣れてきた証とも言えましょう。

 

この週替わりで投稿するブログタイトルは『旅する禅僧』ですが、時期が時期だけに私も含め皆さん、”赴く旅”が叶わずにおります。国が主導するGo To政策もどのようになるのでしょうか。その不安とともに移ろいゆく世相を眺め、人生という旅の景色を共有する楽しさを私は感じ過ごしております。

 

 

 さて、今日は『旅する』と冠していますので、2016年に南アジアの国、バングラデシュを旅した時のことを書こうと思います。

このバングラデシュ人口爆発が社会問題になるなど人口密度が非常に高い国で、現在でこそ人口増加率は低いものとなりましたが、依然労働力を充分に満たすことができる上に賃金が低いことから衣料メーカーなどの工場がたくさんある国です。また、そうした場所での過酷な労働環境などの問題で度々取りあげられることがあります。

 

現在、国民の88%がイスラム教徒ですが、かつては東南アジア諸国へ仏教が伝わっていった仏教史に於いて重要な地であり、かの有名なカンボジアのアンコール遺跡や、ミャンマーバガン遺跡に影響を与えたとされる世界遺産パハルプール遺跡を有しております。

 

 そんな国を実際に歩いてみたく訪れた訳ですが、

私も20有余国を旅した中で一番衝撃を受けた国でした。

 

 

 滞在中、先にも述べたように、人の多さにはとにかく驚かされました。なんでもない、ごく一般的な道で、人や自転車に押し挟まれ混雑で一歩も動けないという状況を何度も経験しました。それはまるで花火大会の行き交う人の混雑のようなものでした。安くない航空券代を払い、時間をかけ私は何しに来たのだろうかと自問したことを記憶しています。

 

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とにかく人の密集度に驚かされた

人が多いということは、多様な人がおります。その中には、働く子供たちの姿や、ストリートチルドレンの姿もありました。

 

多くの人や車、リキシャーで溢れた交差点に差し掛かると、足が止まりました。

 

その時、ふと感ずることがありました。

 

私は、貧乏旅行者でカメラ片手に旅をするバックパッカー。しかし、この交差点で、もしかしたら一番裕福な生活を送っているのかもしれない。その先の旅を思えば決して多いとは言えない額のお金を持っているが、そのお金をこの交差点にいる何%の人が持ち合わせているのか。客引きや物乞いに「ノーマネー」ってなんで言えるんだ。

そう考えたら突然目の前の景色と騒音が遠くかすれてゆくのがわかりました。

私は日本に生まれただけ…

 

しばし呆然と交差点に立ち尽くしておりました。

 

 しばらくすると、誰かの視線を感じます。

目を向けると女の子と男の子が私を見つめていました。2人は兄弟のように見えましたが、確認することは出来ません。この2人はストリートチルドレンで行き交う人たちにお金を乞うておりました。

「そうか、2人はお金が欲しいのだな」と我に返りました。すると、2人の視線が私の肩にかけたカメラに向いていることに気が付きました。

「カメラはあげられないな」そう思った瞬間に2人はポーズをとっていました。写真を撮って欲しかったのだと分かり、すぐにカメラを構え、シャッターを切りました。

ここで2人の写真はお見せ出来ませんが、2人の姿は純真無垢なものでした。

撮影した写真をすぐカメラの画面で見せると、2人は笑顔になり手を振って喧騒の中に走りさり、物乞いを続けはじめました。

 

目の前の喧騒と、行き交う人や車の音に胸のざわつきが溶け込んでゆくのを覚えました。

 

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ダッカ市内の交差点

 

 旅先で見る景色とは、実際はその光景に自分の心の中の風景を映し出し、その景色を眺めているのでしょう。

 このブログに記している、ある時の旅の話は、ある時期の私自身について書いているのです。

 

皆さんにも、心に残る思い出や、思い出される景色があると思います。そこに付随する感情や感想こそが、それらの景色や記憶に導かれて自覚する、ある時期のあなたの心の中の風景なのです。

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自慢のマンゴーを持ってポーズをとる男性。人の数だけ人生があるのだ