旅する禅僧

より多くの方々に仏教をお伝えし、日常の仏教を表現していきます

寒い空と暖かい電車

f:id:tabisuruzensou:20181219084031j:plain

 こんにちは、慧州です。突然ですがみなさんは電車に乗る機会は多いでしょうか?車の運転が苦手な私にとって、電車は一番よく使う移動手段となっています。特に平日はお寺の外で勤めているため、毎朝通勤ラッシュの中、満員電車に詰め込まれる日々を過ごしています。電車の中は人だけでなく、日々の疲れからストレスも充満しているように感じられ、皆が到着駅まで堪え忍ぶように乗っているようでした。気づけば私も電車の中では、音楽やスマホ、読書といった自分の世界に没入することでなんとかやり過ごしていました。

 

 12月頭の早朝5時、時計のアラームが鳴り響く部屋の中、眠気と格闘しながら起き上がった私はいつもより早く電車に乗らなければなりませんでした。12月頭は坐禅を集中的に行う摂心という行持があり、私もある高校へ坐禅のお手伝いに行かなければならなかったからです。摂心期間中は朝早くに坐禅を行うため、始発で高校に向かわなければなりません。寒空の中、私は駅へと足早に向かいました。

 

 なんとか電車に間に合うと、そこはいつもと違う景色が広がっていました。当たり前ですが普段と異なり、朝早くの電車はとても空いています。ただそれでも何人か乗客はいます。サラリーマンだけでなく、部活の朝練に向かっている学生達、どこかの工事現場に行く途中の作業服を着た人などなど、様々な境遇の方が乗っています。何人かは音楽を聴いたりスマホをいじったりしていますが、やはり朝ということもあって寝ている方が多いです。足下から包まれる暖かい電車内での睡眠はとても気持ちがよいもので、私もついついウトウトしてしまいました。

 

 「乗り過ごしたら大変だ。」そう思い目の前を見ると、学生の男の子と隣のサラリーマンが互いに寄りかかって寝ていました。知らない人同士がくっついて寝る姿という不思議な光景に私はすっかり目が覚め、つい微笑んでしまいました。普段乗っている殺伐とした電車内が、こんなにも印象が変わるのかと驚いたからです。ガラガラの電車なのに全く面識のない他人同士が互いに寄りかかる姿は、本人達の意図ではなかったとしても、知らず知らずのうちに互いを支え合っていたのです。

 

 時と場合によって物事の印象が変わることはよくあります。それは電車に乗る時間も同様です。朝早くの電車はいつもよりゆとりがあり、お互いがお互いの存在を認め、許し合うような暖かい空間を生みだしているような気がしました。たまには早起きしての電車通勤も悪くないかもしれません。